てのひら に そっと 91x73cm パネル、和紙、水干絵具、岩絵具 2016
「自然と寄り添い、呼吸を合わせ、風の声を聞く」
加藤義夫(キュレーター/美術評論家)
四季折々の風景の中を散策する。野山や空を仰ぎ見る時、光や風が語りかけてくれる経験を誰しもが持つ。自然との対話の中、風がささやき、詩が生まれ、絵があらわれる。そこには日本人の自然観に裏打ちされた表現がある。
森羅万象、自然の恵は神からの贈り物とする考え方。古来、人と自然との共存、共生関係が日本人の自然観の基本となっている。四季の光や空気をまとい、そして歩くことで、あらたな生命との出会いと発見がある。そんなことを川村愛さんの絵画を観て思う。彼女の絵画は、自然の風景との対話の中で生まれてきた。そして、私たちも花鳥風月を愛でることで、四季折々の時の流れを感じながら、自然のささやきを「そっと」聞いてきた。
川村さんの今回の個展「てのひら に そっと」という展覧会名を知った時、以前にも同様なテーマで個展をしていた作家を思い出した。それは日本を代表する彫刻家の河口龍夫氏だ。2013年京都の「手のひらに そっと 河口龍夫」展だ。筆者は、この展覧会テキストを書き、河口龍夫氏と対談をした。
川村さんの「てのひら に そっと」は奇しくも同名の個展。川村愛さんと河口龍夫氏、年齢も性別も表現手段も違うが、宇宙や自然、真理といった普遍的なテーマを追い求める作家は、同じ思いがにじみ出るのだなと思った。
手のひらの宇宙は、自然からの贈り物。それらをより詩的な世界へといざなうのが川村愛さんの世界であろうか。
大学で日本画と環境デザインのひとつ、ランドスケープデザインを学んだ彼女の自然な身の丈の表現。それらのキーワードは、昨年の個展タイトル「風のいろ、水のかたち、花のこころ」に集約されるといえよう。
自然と寄り添い、呼吸を合わせ、風の声を聞く、彼女の絵画は、心に安らぎを導き出す力を持つ。日々の忙しい現代生活を忘れさせるひと時の出会い、それが川村愛さんの絵の世界観。自然の光を感じ風の声を聞きに「てのひら に そっと」展にでかけてみよう。
- てのひら に そっと - 光の境界は輪郭を包み てのひら に そっと
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川村 愛 (AI KAWAMURA)
1981 高知生まれ
2002 京都嵯峨芸術大学短期大学部日本画コース卒業
2006 京都造形芸術大学環境デザイン学科
ランドスケープデザインコース卒業
卒業制作「アートとランドスケープ」奨励賞受賞
2006-2011年 東大阪市民美術センター創作講座非常勤講師。
絵画を主体に、インスタレーションなど、空間や風景と呼応した作品を制作する。
京都で7年、奈良に4年住み、2011年より高知在住。
個展
2015 「風のいろ 水のかたち 花のこころ -心象風景からのランドスケープ- 」(GULIGULI/大阪)
2014 「はな とり かぜ つき さざなみ 星屑」(緑青/滋賀)
2012 「やわらかな密度」(terzo tempo/高知)
2009 「流星群と三角スケール」(iTohen/大阪)
2008 「森海」(iTohen/大阪)
展覧会
2016 「Summer」常設&ギャラリーコレクション展(ギャラリー風/大阪)
「白紙展」(紙の博物館/高知)
2012-2015年 町歩きアートイベントINOBI ORDER(高知)
2010 「弥生吉日」(gallery みずのそら/東京)
2007 東大阪市民美術センター創作講座講師展「美セッション」(東大阪市民美術センター/大阪)