『 息が漏れる 』
68.3×50(cm) パネルに綿布、紙粘土
アクリル、水彩、鉛筆、クレヨン 2015年
「ヌーヴォー・ジャポニスムの芽生え」
加藤義夫(キュレーター/美術評論)
浮世絵や琳派といった江戸期の日本美術の特徴に、左右非対称で余白を活かした構図と平面的表現、さらに大胆な色彩があると言われる。これは西洋絵画との比較において特徴づけられたものだといえる。
19世紀中頃から後半のロンドン、パリ、ウィーンで開催された万国博覧会で、評判となった大人気の日本美術や工芸作品は、ジャポニスムと呼ばれヨーロッパに旋風を巻き起こした。このジャポニスム旋風は、西洋美術の伝統的な約束事や遠近法をぶち壊し、ヨーロッパの美術家達に多大なる影響を与えた。
「印象派」を代表するモネやルノアール、そしてゴッホ、また「アール・ヌーヴォー」を代表するロートレックやガレといった作家たちに新しい芸術のインスピレーションを与えた。
絵画の構成要素の中にこのような日本美術の伝統性を引き継ぎながら、抽象性を強調し現代的な表現を打ち出しているのが、森綾乃(1990年大阪府生まれ)さんの絵画だといえよう。左右非対称や、大胆に余白を活かした構図、平面的表現性と鮮やかな色彩は、彼女の絵画の中に見事に生かされている。
初個展は、2014年にギャルリ・東京ユマニテhumanite bis で開催。今年は、上野の森美術館の「VOCA展2015現代美術の展望-新しい平面の作家たち」に、赤松祐樹氏(DIC川村記念美術館学芸員)の推薦を受け出品している。
森さんの絵画を平面上の空間として意識する時でも、彼女の絵画は物質的なものとして環境空間に浸食し広がりをみせる。例えば、支持体のパネルの側面にわずかだが赤や黄の絵の具がはみ出し、環境空間に越境している。絵画は一枚の平面である前に物質として存在することへの意識がそうさせるのだろうか。
2013年以降の近作に、この傾向が強い。彼女自身の言葉「空間の中で大きく深呼吸していたい」は、作品の本質を物語るものだ。
余白とされる画面上の白い空間の色相は、重層的に塗られた色彩が見え隠れするが、ほとんどが白色によっておおわれている。色を重ね白色という光によっておおい隠すことで生まれてくるものとは何か。画面上の足し算と引き算の末に、彼女自身か選択し完結し完成させた絵画空間に、優れたセンスとともに強い意志を感じる。それを潜在意識下のヌーヴォー・ジャポニスムと呼んでもいいだろう。新鮮な日本美術、あらたな日本絵画の誕生である。
森 綾乃 (Mori Ayano) 略歴
1990 大阪生まれ
2012 大阪芸術大学芸術学部美術学科油画コース 卒業
2014 多摩美術大学大学院博士前期課程 美術研究科油画専攻 修了
現在、東京・大阪で制作活動中
●受賞歴
2013 第28回ホルべイン・スカラシップ奨学生
●個展
2014 森綾乃展「解放される場所」(ギャルリ・東京ユマニテhumanite bis/東京)
●展覧会
2015 VOCA展2015現代美術の展望―新しい平面の作家たち(上野の森美術館/東京)
2014 五美術大学連合修了制作展 (国立新美術館 六本木)
「少し明るくなる」多摩美術大学大学院有志展(相模原市民ギャラリー/神奈川)
多摩美術大学大学院博士前期課程修了制作展 (多摩美術大学八王子キャンパス/東京)
2013 「On PAPER 2013」 (多摩美術大学美術館/東京)
2012 「Expected Artists 2012」 (Shonandai MY Gallery/東京)