「未生空間-美の再考」シリーズのはじまりに
加藤 義夫 (キュレーター/美術評論家)
旧知の仲であるギャラリー風の特別顧問・澤 玄昭さんから日本的な絵画空間のあるべき姿を問い直したいので協力して欲しいと、連絡をもらった。後日、直接会って話し合う場を持ち、この命題を問う展覧会「未生空間-美の再考」をシリーズで企画することになった。第1回の出品作家は永山 裕子さん、渡邉 順子さん、赤松 亜美さんの3名である。これらの作家たちは、平安から現代に至るまで日本美術に通底する「余白の美」を特徴としながら、斬新で現代的な表現を得意とする稀有な画家たちである。
明治維新から150年、西洋列強に並ぶために近代化を目指してきた日本は、大きく西洋化に向けて全てのものが走り出した。美術では日本の伝統的な美意識を切り捨て西洋的価値観によるコンセプト主義が王道となった。現在、現代アートの世界で高評価を得ている作品とは、コンセプトとインパクトとオリジナリティがあるものだ。ここに日本人が感じる「余白の美」の美しさは、ほぼないと言える。美は現代アートの価値観において取るに足らないものとなっているのか。
近代化による西洋化によって置き忘れてきたものに、日本人が美しいと思える空間の美意識がある。例えば、安土桃山時代の長谷川等伯「松林図」が持つ空間に美意識を感じることができる。余計なもの余分なもの、二義的なものを排除し、不在による存在を暗示し、余白に意味を持たせる。気配の文化とでも言えようか。はっきりとは見えないが漠然と感じられる意味の気配という言葉の裏には、イエス、ノーでは簡単に片付けようのない繊細な感性が含まれている。この「余白の美」の曖昧さこそが日本人の美意識の根幹となるものかもしれない。
他者に確実にメッセージを届けようとするのではなく、相手にさりげなく感じ取ってもらう感性が息づいている。言葉も文化や宗教も違う外国人には、この表現は有効に響かない。強いコンセプトと強いインパクトが必要な世界では、なおのこと。全くと言っていいほど理解できない表現なのかもしれない。あえて日本人だけが感銘を受ける空間の美意識を世界に向かって発信することは、日本文化の独自性を声高に謳うことになるとも言える。まだ生まれ得ぬ余白の間である「未生空間」という世界観が現代アートの価値観を超えて、日本的空間の美意識の提言となり、日本美術の本来あるべき姿を未来に見出したいものだ。
永山 裕子 略歴
1963 東京生まれ
1985 東京芸術大学油画科卒業 安宅賞・大橋賞を受ける
1987 東京芸術大学大学院(彼末 宏教室)修了
現在 武蔵野美術大学 油絵科 非常勤講師
嵯峨美術大学 客員教授
主な展覧会 (2016 ~)
2017 素描と水彩展 セントラルミュージアム銀座(東京)(07, 09, 11, 13, 15, )
2016 素描と水彩展 あべのハルカス 美術画廊(大阪)
ギャラリー風(大阪)(92, 95, 98, 02, 13)
招待作家として出席
2017 天色常蓝——青岛国际(春季)艺术沙龙展参展国际艺术(中国)
桃園国際水彩画展覧会(台湾)
Shang Hai Johhan Invitation Exhibition of International Watercolor Art(中国)
2016 Aquarellades 2016 Mons(Belgium)
笠井 一男 永山 裕子 Duo exhibition 明ギャラリー(中国)
2015 Bienniale hnternatiale de ľaquarelle(France)
2015- International watercolor society Exhibition(Mexico, Hong Kong, Vietnam)
2014 WORLD WATER MEDIA EXPOSITION THAILAND (Thailand)
渡邉 順子 略歴
1984 大阪生まれ
2007 大阪芸術大学芸術学部美術学科 卒業
主な展覧会(2014 ~)
2017 4人展(法然院展示室 / 京都)
2人展(ギャラリーDEN / 兵庫)
ART OSAKA 2017 (ホテルグランヴィア大阪) 14
2016 Galerie Tzigane (大阪)
ギャラリー風(大阪)10, 09
2015 二人展 (純画廊 東京) 14
2014 ヤングクリエイターズセレクションvol.2 (MIギャラリー 大阪)
21世紀女性アーティスト展vol.7 (MIギャラリー 大阪)
掛け軸展 (Galerie Vanessa Rau France)
チャリティー展 art for people (純画廊 東京)
受賞
2010 全関西美術展 3席
2009 全関西美術展 読売テレビ賞
2008 全関西美術展 1席
シェル美術大賞展 中井康之審査員賞
赤松 亜美 略歴
1987 大阪生まれ
2012 大阪芸術大学芸術学部美術学科 卒業
主な展覧会 (2014 ~)
2017 ART in PARK HOTEL TOKYO 2017 /
パークホテル東京 (汐溜)
個展 / ギャラリーs-pione(福岡)
2016 TEGAMI-5年目展- / 鴨江アートセンター (浜松)
ART OSAKA / ホテルグランヴィア (大阪) 15, 14, 13
2015 個展 / ギャラリー風 (大阪) 14, 13
KIAF / COEX (韓国・ソウル)
初夢展 / ギャラリー風 (大阪) 14
カロンズ大賞展 / ギャラリー風 (大阪) 14
2014 TEGAMI -日本から来たアーティストのはがき- (ドイツ・ベルリン)
監修・加藤 義夫 略歴
1954年大阪府生まれ。グラフィック・デザイナーやギャラリストを経て、キュレーターや美術評論家となる。
「大阪・ハンブルク友好都市記念事業」「芸術と自然」「大阪アートカレイドスコープ」「テキスタイルの未来形」「αMプロジェクト」
「群馬青年ビエンナーレ」「水都大阪」「あいちトリエンナーレ地域展開事業 アーツ・チャレンジ」などのキュレーターや審査委員を歴任する。
現在、加藤義夫芸術計画室主宰。朝日新聞大阪本社アート欄「美術評」担当、国際美術評論家連盟会員、ART OSAKA実行委員、芦屋市文化振興審議会委員。
大阪教育大学・大阪芸術大学・大阪成蹊大学・近畿大学・神戸大学・武蔵野美術大学・名古屋造形大学・放送大学・宝物医療大学で非常勤講師。
共著・編著に「高須英輔57の階段彫刻」「アートマネージメントを学ぶ」「川俣正 アーティストの個人的公共事業」
「ヨッちゃんの部屋 加藤義夫芸術計画室10年全仕事」「A Retrospective of the 40 Years of Metal Works Yoo Lizzy」
「GUTAI STILL ALIVE 2015 VO.1」「高須英輔の仕事」がある。